食べた脂肪はどうなるか皆さんはご存知だろうか?中性脂肪として蓄えられるだけが脂肪の役割ではない。体の様々な機能、例えば熱を出したり,血小板を固めたり,筋肉を収縮させたりなどするための、スイッチをオンにする物質の材料になったりもするのである。そういったスイッチをオンにする物質のことを生理活性物質と言う。脂肪は、分解されて脂肪酸とグリセリンになる。脂肪酸の一部は、リン脂質として細胞膜の成分になる。脂肪酸にはオメガ6脂肪酸とオメガ3脂肪酸の2種類があり、それぞれが材料となって違った種類の生理活性物質ができる。オメガ6脂肪酸は陸の動物の肉に多く、オメガ3脂肪酸は海の魚に多く含まれる。魚が肉に比べて身体に良いというのは、オメガ3脂肪酸の効果が強いということから言われていることなのである。
これまでオメガ6脂肪酸からできた生理活性物質についての研究がさかんになされてきた。その結果、同じオメガ6脂肪酸を材料にしているのに相反する(例えば血液をさらさらにする,どろどろにする)機能を持った幾つかの生理活性物質が発見されたり、同じ種類の生理活性物質でも体の部位によって違った機能を果たすケースが発見されたりした。このオメガ6脂肪酸由来の生理活性物質の中では、最近リポキシンがおもしろい。このリポキシンには、炎症を抑える働きがある。炎症を起こさせる物質を邪魔したり、免疫細胞の異常な増殖を抑えたりすることが分かってきた。また、このリポキシンに注目するとアスピリンの薬効を新しく説明できる。鎮痛物質(抗炎症剤)アスピリンの投与によって、特殊なリポキシンの合成が促進され、その特殊なリポキシンが炎症を抑えていることが分かってきた。
これまでの研究は、オメガ6脂肪酸からできる生理活性物質が中心であり、オメガ3脂肪酸からできる物質の働きについては重要視されてこなかった。しかし、最近オメガ3脂肪酸からできる物質も様々な機能を持つ生理活性物質であることが分かってきた。例えば、ある種のオメガ3脂肪酸由来の生理活性物質はガン細胞の増殖を抑えたり炎症を抑えることが発見された。
また、オメガ6脂肪酸から前述の特殊なリポキシンの合成する経路と同じ経路でオメガ3脂肪酸からレゾルビンという生理活性物質ができる。このレゾルビンも炎症を抑える効果があることが分かった。さらにこのレゾルビンがオンにするスイッチがどういうものかも解明された。このスイッチは、心臓血管や,腸,腎臓,脳,骨髄にあり、それを実験的に壊してみると、レゾルビンの効果が発揮されない。驚くべきことに、このレゾルビンのスイッチは、リポキシンがオンにするスイッチと同じ働きを持っていながら、その分子構造はまったく別のものであった。オメガ3脂肪酸からできる生理活性物質がオンにするスイッチの構造が解明されたのはこれが世界で初である。
こうして、オメガ3脂肪酸から合成される生理活性物質も体内で重要な働きをしていることが分かり始めてきた。今後、オメガ6脂肪酸からできる生理活性物質とオメガ3脂肪酸からできる生理活性物質が体内でどんなバランスで働いているか,その合成はどうやって調節されているのか、に関する研究を進めるべきだろう。そのためには、オメガ3脂肪酸から合成される生理活性物質についての知見がもっと必要であろう。