TeNQ/太陽系博物学展

「太陽系博物学」展

宮本英昭(本館准教授・太陽系博物学担当教員、固体惑星科学)

 

会場は日中も夜も、常に来館者で賑わっている。

会場は日中も夜も、常に来館者で賑わっている。

ガラス張りの研究室で実際に研究活動を行っている。

ガラス張りの研究室で実際に研究活動を行っている。

メッセージや解説は、文字の大きさを5段階に分けて表示している。

メッセージや解説は、文字の大きさを5段階に分けて表示している。

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体験スペースは人気がある。中には解説をかなり深く読む人がいる。

現代は惑星科学の革命期にある。人類は既に60個以上の天体に120機以上の探査機を送り込み、膨大な探査データの獲得に成功した。特に近年の探査の進展は目覚ましく、新たな探査機が次々と打ちあがるさまは、かつての大航海時代を彷彿とさせるほどだ。当時、船舶の改良や新航路を発見することで、一気に諸外国から様々な交易品を得たように、より高度な探査装置を積んだ宇宙機を駆使した人類は、太陽系に関する知見を次々と獲得しているのだ。

新大陸に飛び出し自然の多様性を認識できたことは、博物学の発展においてきわめて重要な要素であった。これと同様に、探査が明らかにした太陽系内天体の百般の姿は、博物学の新たな幕開けを予感させる。探査データの丹念な解析により天体ごとの特徴をつぶさに記載することができるのだから、これらを分類し比較することは、地球を含めた太陽系天体の姿を知るための重大なステップとなるだろう。私たちはこうした研究が、「太陽系博物学」と呼ぶあたらしい学問体系の構築につながると考えている。

この「太陽系博物学」に関する研究を行うために、東京大学総合研究博物館は新たに太陽系博物学寄付研究部門を設置した。ここでは5人の専属スタッフが、探査機の取得したデータ解析や、将来の探査計画に関連した機器の開発などを大学院生らと共に行っている。「太陽系博物学」を推進するには、こうした基礎研究を行うだけでなく、より広い視野を持って探査を戦略的に進めていく必要がある。コストの高い宇宙探査を推進するには、サイエンスの意義のみならず、広く一般市民から支持されるものでなければならないからだ。

このように考えると、より多くの人々に本物のサイエンスを提示し、宇宙探査の意義を問うことが、太陽系博物学を進める上で本質的に重要となるだろう。だがこれを、大学の中だけで実施することは困難である。というのも、学内において多くの人々に直接アプローチすることは難しいし、次々と惑星科学の常識が塗り替えられるような状況は、文章や常設的な展示などで情報を発信するのに不向きだからだ。

そこで私たちは㈱東京ドームとのコラボレーションによって、これを実現することにした。同社の進める宇宙ミュージアムTeNQ事業に、太陽系博物学寄付研究部門が関わることにした。それも監修として関わるだけでなく、研究者らが常に展示会場に留まり、刻々と得られる新たな知見をタイムラグなく展示に反映するという、恐らく世界でも例のない極めて挑戦的な実験展示を行うことにしたのだ。研究を行う現場そのものを展示してしまうことで、広がりゆく惑星科学分野の最先端の成果を提示できる、いわば太陽系探査情報ステーションという機能を持てるであろう。私たちはこれを、「太陽系博物学」展と名付けることにした。

文字通り東京の中心に位置し、常に多くの人々で溢れかえる東京ドームシティは、こうした活動を行う上で最適ともいえる場である。㈱東京ドームのご配慮により、私たちが研究者の立場から作り上げた「太陽系博物学」展を、宇宙ミュージアムTeNQの「サイエンスコーナー」と呼ばれているスペースに、全く修正を強要されることもなく展開させていただけることになったのだ。アミューズメント性の高い宇宙ミュージアムTeNQの中にありながら、この「太陽系博物学」展には、莫大な量の実際の探査データが示され、さらにその分野のトップランナーである研究者らによる厳密かつ包括的な解説が、日本語と英語で記されている。そこには2013年の「宇宙資源展」で私たちが開発した手法が用いられたので、特段の興味もなく通りがかった人々も内容を容易に把握できるし、一方で興味を持って立ち止まった来館者は、かなり深い内容まで把握できるように丹念に作りこまれている。高解像度デジタル表示システム(4K以上のディスプレイなど)を多用しビジュアル情報を次々と切り替えているので、来館者には気づかれにくいが、実は文字数でいうと約10万文字にも達する、極めて硬派な展示である。

宇宙ミュージアムTeNQは2014年7月のオープン後、チケットの売り切れが続くなど大変な混雑を見せている。来館者のほとんどは、アミューズメント性の高いシアターや体験型アトラクションを楽しみに集まっているのだが、彼らは意図せずとも、この極めて専門性の高い「太陽系博物学」展を閲覧することになる。「展示物」として姿を見られている私たちは、意外にも来館者のかなりの割合の方々が、こうした膨大な量の展示マテリアルに丹念に目を通して下さっているのに驚かされている。今後は情報のアップデートだけでなく、来館者の行動パターンも観察させていただき、来館者のご意見なども反映して、より質の高い科学を適切に伝えられる展示へと改良していきたい。同時にこの奇異な空間から、世界をあっと驚かせる素晴らしい研究成果を生み出したいと考えている。

 

宇宙ミュージアムTeNQ(テンキュー)/東京ドームシティ(開館基本情報)
太陽系博物学寄附研究部門 宮本研究室
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