最近の研究成果


  1. スズ交換モンモリロナイト(Sn-Mont)のもつナノ空間反応場と固体酸性を利用した化学変換
    ・ポイント
    ⇒ Sn-Montは粘土鉱物の中では大表面積・細孔容積をもち,固体酸性も強く,優れた固体酸触媒として働く.Sn-Montは,カードハウス構造をとるモンモリロナイト層が囲む空間にSn(OH)4ナノ粒子が形成された構造をもち,強い酸性が発現することを明らかにした.この固体酸性により,アルデヒド,ケトン類へのMe3SiCNが付加するシアノシリル化反応,アミン存在下でのStrecker反応が高速で進む.特にSn-Mont固有のメソ多孔性反応場により,従来報告例のなかった嵩高いケトンへの付加にも成功した.さらに,アルデヒド,ケトン類に対して,嵩高いt-BuMe2SiCNを用いたシアノシリル化反応にも高い活性を示すことを明らかにした.



    J.-C. Wang, Y. Masui, K. Watanabe, M. Onaka, Adv. Synth. Catal., 351, 553-557 (2009).
    J.-C. Wang, Y. Masui, M. Onaka, Eur. J. Org. Chem., 1763-1771 (2010).
    増井洋一,王家成,寺村謙太郎,小暮敏博,田中庸裕,尾中 篤,触媒,52, 80-82 (2010).
    J. Wang, Y. Masui, T. Hattori, M. Onaka, Tetrahedron Lett., 53, 1978-1981 (2012).


    ヒドロキシ基は一般に脱離能が乏しいために,求核剤による直接的な置換反応を起こしにくい.しかし,ベンジル位あるいはアリル位炭素上のヒドロキシ基は,Sn-Mont の存在下,Me3SiCH2CH=CH2, 1,3-カルボニル化合物,R3SiCN によって直接アリル化,活性メチレン部位によるアルキル化,あるいはシアノ化された.いずれの反応においても既に報告されているルイス酸やプロトン触媒よりも遙かに高い TON,TOF を示した.



    特に,シアノ化反応において,通常,より嵩高いために反応性が低いと考えられているt-BuMe2SiCNの方が,Me3SiCNよりも遙かに高い反応性を示すという面白い結果が得られた.さらに,共役系が続くアルコールに対しては,シアノ基が末端部位にのみ導入されるという高い位置選択性も見出された.




    MeOHの存在下,Sn-Montの固体酸触媒作用によって三糖類(ジヒドロキシアセトンあるいはグリセルアルデヒド)から乳酸メチルが定量的に生成する.この反応では,Sn-Montのブレンステッド酸性によるPAMHからMLへの異性化の促進過程が鍵となっている.
    J. Wang, Y. Masui, M. Onaka, Appl. Catal. B: Environ., 107, 135-139 (2011).




    Table. Gibbs free energy differences at 25 oC using B3LYP/6-31G(d)


    ケトンを受容体とする向山アルドール反応は進行が遅く,報告されてきた固体酸触媒は例が少ない上に触媒調製,価格,活性の点でデメリットがあった.Sn-Montを触媒とすると,種々の嵩高いケトンに対して,求核性の低いケトンエノラートとの付加反応を効率良く進行させ,アルドール生成物を酸性条件で加水分解されやすいシリルエーテルのまま得ることができた.
    S. Takehira, Y. Masui, M. Onaka, Chem. Lett., 43, 498 (2014).




  2. 縮合・環化反応(特に大環状化合物の合成)
    ・ポイント
    ⇒ 濃厚溶液中で,分子間縮合反応を抑えながら,分子内環化反応の促進をめざす.
    a. ポルフィリン合成

    T. Shinoda, Y. Izumi, M. Onaka, J. Chem. Soc., Chem. Commun., 1801 (1995)
    尾中 篤, ナノ学会会報, 2, 89-97 (2004)

    b. マクロライド合成 (高濃度溶液でラクトン化反応が優先)

    T. Ookoshi, M. Onaka, Tetrahedron Lett., 39, 293 (1998)


  3. 周辺環状反応(シリケート空間内の極性反応場によるDiels-Alder反応の活性化)
    ・ポイント
    ⇒ 従来の塩化アルミニウムや三フッ化ホウ素触媒の代替となり,しかも再使用が可能で安全なグリーン触媒の開発を目指す.濃硫酸よりも効率的な固体酸触媒を見出す.
    M. Onaka, R. Yamasaki, Chem. Lett., 259 (1998)
    M. Onaka, N. Hashimoto, R. Yamasaki, Y. Kitabata, Chem. Lett., 166 (2002)
    M. Onaka, N. Hashimoto, Y. Kitabata, R. Yamasaki, Appl. Catal. A, General, 241, 307 (2003)


  4. メタセシス反応(高活性なMoやRe触媒の開発)
    ・ポイント
    ⇒ 高規則性シリカあるいはアルミナ多孔質表面を配位子場として活用し,メタセシス反応に高い活性を示す不均一系金属触媒の開発を目指す.
    T. Ookoshi, M. Onaka, Chem. Commun., 2399 (1998)
    M. Onaka, T. Oikawa, Chem Lett., 850 (2002)
    T. Oikawa, T. Ookoshi, T. Tanaka, T. Yamamoto, M. Onaka, Micropor. Mesopor. Mater., 74, 93 (2004).

    ⇒ MeReO3/SiO2-Al2O3 (Herrmann触媒)よりも触媒性能が高いことを確認.
    エステル,ケトン,ハロゲンなどの官能基をもつオレフィンに適用可能.

    T. Oikawa, Y. Masui, T. Tanaka, Y. Chujo, M. Onaka, J. Organomet. Chem., 692, 554 (2007).


  5. ハニカムカプセル化酵素の創製
    ・ポイント
    ⇒ ナノメートルオーダーの均一な細孔径をもつ,ハニカムトンネル構造のシリカ空間内部に酵素を組み込み, 酵素の構造を安定化し酵素触媒活性を高め,しかも高密度集積化した,新たな固定化酵素触媒の開発. クリーンで安全なエステル化法を実現.
    RCOOH + R'OH → RCOOR' + H2O

  6. 不斉合成触媒の開発
    ・ポイント
    ⇒ ナノポーラスシリケートであるゼオライトが存在する時のみ,不斉エポキシ化反応を効率よく行える不斉なジルコニウム錯体触媒が形成されることを確認.また,ジルコニウム錯体と酒石酸誘導体(不斉配位子)のモル比を,1対1から1対2に変えることで,生成するエポキシドの絶対立体配置が逆転することも発見.医薬中間体の合成にも実際に適用された.

    T. Okachi, N. Murai, M. Onaka, Org. Lett., 5, 85 (2003)



  7. ルイス酸固定化触媒の開発
    ・ポイント
    ⇒ メソポーラスシリカにルイス酸を固定化し,カルボニル−エン反応を速やかに起こし, かつ高い立体選択性を発現し,しかも溶け出しの無いルイス酸固定化触媒の開発を目指した.  探索の結果,オクチルアミンを鋳型剤として合成したメソポーラスシリカ(C8-HMS)は粒子径が小さく,臭化亜鉛を担持した固定化ルイス酸触媒は,効率良くシトロネラールをイソプレゴールへ立体選択的に変換した.一方,炭素鎖の長いアミン(C12とC16)から得られるメソポーラスシリカ(C12- HMSおよびC-16HMS)は,粒子径が大きく,これらを担体としたものは,触媒活性が下がった.

    S. Imachi, K. Owada, M. Onaka, J. Mol. Catal. A, 272, 174 (2007).




  8. 不安定化学種担持ゼオライトの開発及びその特異な反応性
    ・ポイント
    ⇒ 自己集合により不安定なホルムアルデヒド,アクロレイン,シクロペンタジエンが ゼオライトのナノ細孔中で安定に保持されることを発見. さらに,ゼオライトに保持されたホルムアルデヒド,アクロレイン,シクロペンタジエンは,カルボニル―エン反応や ディールス・アルダー反応,芳香族化合物のアルキル化反応に対して高い活性を示すこともわかった.

    T. Okachi, M. Onaka, J. Am. Chem. Soc., 126, 2306 (2004)
    S. Imachi, M. Onaka, Tetrahedron Lett., 45, 4943 (2004)
    S. Imachi, M. Onaka, Chem Lett., 34, 708 (2005).




    ・ポイント
    ⇒ ジアゾ酢酸エステルのアセチレン類への1,3-双極子付加環化反応の促進(ゼオライトの利用により,特に保存の困難な不飽和アセチレン化合物の利用を可能とする長所をもつ)

    K. Kobayashi, Y. Igura, S. Imachi, Y. Masui, M. Onaka, Chem. Lett., 37, 60 (2007)




  9. ゼオライトにおける不安定化学種の安定捕捉現象に関する理論化学的研究
    最近,ゼオライト細孔中でホルムアルデヒドが何故安定貯蔵されるのか,吸着ゼオライトの種類によってホルムアルデヒドの 13C NMR 化学シフト値が何故異なるのか,について理論化学的に解明した.


    M. Tomita, Y. Masui, M. Onaka, J. Phys. Chem. Lett., 1, 652-656 (2010).


  10. メソポーラスアルミナの合成法,応用例に関する最新の総説
    T. Seki, M. Onaka, Mesoporous Alumina: Synthesis, Characterization, and Catalysis, in "Advanced Nanomaterials," ed by K. E. Geckeler, H. Nishide, Chap. 15, 481-521, Wiley-VCH Verlag, 2009.


  11. メソポーラスアルミナが強い塩基性を示すことを発見
    ・ポイント
    ⇒ 細孔構造が一定でない通常のγ−アルミナに比べ,狭いナノ細孔径分布のナノ細孔で構成されたメソポーラスアルミナは,CO2をプローブ分子とする昇温脱離法測定の結果,より強い塩基点が存在することを見出した.
    T. Seki, M. Onaka, J. Mol. Catal. A, 263, 115 (2007).
    T. Seki, M. Onaka, Catal. Surv. Asia, 10, 138 (2006).



    Fig. TPD plots of CO2 desorbed from 50 mg γ-Al2O3 (gray line) and mesoAl2O3 (black line) in the temperature range 800-1273 K.


  12. ナトリウムイオン修飾メソポーラスアルミナの開発
    ・ポイント
    ⇒ ナトリウムイオンで修飾することにより,メソポーラスアルミナは更に強い塩基性を発現し,低温でオレフィンの異性化反応を引き起こす.
    T. Seki, S. Ikeda, M. Onaka, Micropor. Mesopor. Mater., 96, 121 (2006).




  13. 超臨界二酸化炭素媒体中でのTeshchenko反応のための固体超塩基触媒の開発
    ・ポイント
    ⇒ 超臨界二酸化炭素(scCO2)は環境調和型溶媒として注目されているが, CO2が本質的に求電子的(イオン化ポテンシャル 13.7 eV,電子親和力:3.8 eV)で,それゆえ Lewis 酸性媒体であるために,これまで酸触媒反応,中性の遷移金属触媒反応に限られて使用されてきた. 塩基点の平均強度は従来のγ-Al2O3よりも低いが,表面にscCO2中でも機能する強塩基点が点在する,バルク内部にSO42-を含むメソポーラスアルミナ,mesoAl2O3/SO42-を用いることで,scCO2中のTishchenko反応に対する優れた強塩基触媒作用を実現した.
    T. Seki, M. Onaka, Chem. Lett., 34, 262 (2005)
    T. Seki, M. Onaka, J. Phys. Chem. B, 110, 1240 (2006)




  14. 発見は古いが,現在も化学工業で利用されるTishchenko反応に関して最新までの研究例を網羅した唯一の総説
    T. Seki, T. Nakajo, M. Onaka, Chem. Lett. (Highlight Review), 35, 824-829 (2006).


  15. アルミナ担持パラジウム触媒を用いる触媒的な炭素-炭素結合生成反応
    表面積の広いγアルミナ上に酢酸パラジウムを直接焼成担持することで得られる,二価パラジウム種が高分散化されたアルミナ担持パラジウム触媒(Pd/Al2O3)は,鈴木-宮浦カップリング反応をはじめとする触媒的な炭素-炭素結合生成反応に優れた触媒性能を示す.

    ・ポイント
    ⇒ 本触媒反応系は有機配位子を全く使用せず,純エタノール溶媒中(無水条件下),速やかに反応を促進する.またPd/Cの様な空気中での発火の恐れもなく安定で取り扱いが容易である.
    ⇒ 担体はパラジウム種を高分散化しているだけではなく,パラジウム種への配位による活性化にも寄与していると考えられる.
    D. Kudo, Y. Masui, M. Onaka, Chem. Lett., 36, 918 (2007).





    ⇒ 電子供与性の置換基を持つ臭化アリールに対しても高い活性を示す.


  16. 二酸化炭素を原料とする化学合成
    蒸留可能で取り扱いやすいSn(O-t-Bu)4が,二酸化炭素とメタノールからの炭酸ジメチル合成の触媒前駆体として,従来の毒性のあるBu2Sn(OMe)2よりも高い触媒活性を示すことを見いだした.さらに,助触媒としてフェノールとピリジンを同時に加えると,活性が一段と高くなることもわかった.また,計算化学手法を用いて炭酸ジメチル合成反応の新たな反応機構を探索し,6配位構造の二カーボナートスズ(IV)複核錯体を経由する(下図は二核錯体を表示.三核以上の複核錯体でも同様の部分構造ができていると考えられる)ことを明らかにした.







  17. 新規高分子網状構造体の合成
    入手容易な芳香族ポリアミン化合物と芳香族ジアルデヒドの脱水縮合,引き続くTMSCNによるシアノシリル化反応を用いて,簡便にα-アミノニトリル部位をもつ高分子網状構造体を収率良く合成することに成功した.
    J. Wang, Y. Masui, M. Onaka, Polym. Chem., 3, 865-867 (2012).








  18. 多孔性カーボンナイトライド(nanoC3N4)の開発とその物性
    ・ポイント
    ⇒ 積層構造をとるグラフィティックカーボンナイトライド(g-C3N4)を硫酸中で分散させ,続いて苛性ソーダ,エタノールに漬けると,高比表面積をもつ多孔性カーボンナイトライド(nanoC3N4)を生じる.その固体塩基性はg-C3N4よりも強い.
    T. Iwamoto, Y. Masui, J. Wang, M. Onaka, Chem. Lett. 42, 247 (2013).








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