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物性セミナー/2019-5-17

2019年 夏学期 第2回 物性セミナー

 講師 那須 譲治 氏(横浜国大 理工学部)

 題目 キタエフ量子スピン液体の熱伝導現象

 日時 2019年 5月 17日(金) 午後4時50分

 場所 16号館 827

アブストラクト

極低温まで磁気秩序を示さない量子スピン液体はP. W. Andersonによる理論提案以降、およそ半世紀にわたって磁性物理学の主要な研究テーマのひとつになっている。この状態にはあらわな秩序変数が存在しないため、それをどのようの特徴づけるかが議論となっている。近年では、その特徴としてスピンの分数化が注目され、それによって生じるフェルミ励起に由来した極低温での比熱の漸近的な振る舞いなどが実験的に調べられている。このような実験結果と比較するためには有限温度の理論計算が必須となるが、量子スピン液体の性質を理論的に理解するのは絶対零度ですら困難であることが知られている。本研究では、量子スピンの顕著な特徴である分数励起を捕らえるため、厳密に量子スピン液体を基底状態に持つキタエフ模型[1]に注目する。この模型は単なるtoy modelではなく、スピン軌道相互作用の強い絶縁磁性体がその候補物質となり得ることが指摘されており[2]、実験理論共に精力的な研究が行われている。我々は、この模型に量子モンテカルロ法を適用し、実験的に測定可能な有限温度における物理量の計算を行った。この模型では、量子スピンの分数化により、創発マヨラナ準粒子と六角形を貫くZ2フラックス励起が生じる。この2種類の分数励起のうち、前者が遍歴性を有するため、輸送現象の測定はキタエフ量子スピン液体の分数化を明らかにする上で重要な手段となり得る。ここでは特に、縦熱伝導度及び熱ホール伝導度の温度変化を詳しく調べた[2]。縦熱伝導度は、相互作用のエネルギースケールに対応する温度でピークを持つ。磁場を導入すると縦熱伝導度はほぼ変化しないが、熱ホール伝導度は磁場の導入に伴って有限となり、非単調な温度依存性を示した後、低温で量子化が起きる[3]。量子化値は電子系で期待されるものの半分であり、これは熱輸送をマヨラナ粒子が担っていることを意味する。近年、候補物質RuCl3において、熱ホール伝導度の測定が行われており、半量子化の観測が報告されている。これは、マヨラナ準粒子の存在を強く示唆するものであり、当日は、我々の計算結果と実験との対応も議論する[4,5]。

[1] A. Kitaev, Ann. Phys. (N. Y.) 321, 2 (2006).
[2] G. Jackeli and G. Khaliullin, Phys. Rev. Lett. 102, 017205 (2009).
[3] J. Nasu, J. Yoshitake, and Y. Motome, Phys. Rev. Lett. 119, 127204 (2017).
[4] Y. Kasahara et al., Phys. Rev. Lett. 120, 217205 (2018).
[5] Y. Kasahara et al., Nature 559, 227 (2018).

宣伝用ビラ

KMB20190517.pdf(168)

物性セミナーのページ

http://park.itc.u-tokyo.ac.jp/KMBseminar/wiki.cgi/BusseiSeminar

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最終更新時間:2019年05月09日 12時40分11秒