2016年 夏学期 第6回 物性セミナー
講師 若本祐一氏(東大総合文化)
題目 1細胞ヒストリーから見た細胞集団の増殖と生存
日時 2016年 7月 7日(木) 午後4時50分 今シリーズは木曜日が定例日となります
場所 16号館 827
アブストラクト
近年、タイムラプス顕微観察技術やマイクロ流体デバイスを用いた細胞計測技術の進展により、1細胞レベルの詳細な状態変化情報を何世代にもわたって得ることが可能になりつつある。細胞システムの特徴のひとつは、成長し、分裂(増殖)し、そして死ぬことである。しかし、同じ環境に置かれた同じ遺伝情報を持つクローン細胞であっても成長能力にはばらつきや時間的な変動があり、ストレス環境下での生存能にも差がある。これら「適応度(fitness)」の差は、細胞集団の中で優先的に観察される状態変化のヒストリーと、そうでないヒストリーを生みだすが[1]、逆に、このようにして生じる様々なヒストリーを適切に解析することができれば、細胞のどのような性質が、与えられた環境下での増殖や生存にとって重要であったのかという情報を得られるだろう。
今回の物性セミナーでは、まず細胞の長期ヒストリーの取得を実現する独自計測技術を紹介し、さらにこの技術を用いて行った、定常環境下での大腸菌の増殖現象の解析について発表する[2]。その中で、細胞レベルでの成長ゆらぎが集団の増殖率を増加させること、そして、増殖系の解析において細胞ヒストリーに着目することが有用であることを述べる。さらに、この見方を拡張すれば、細胞ヒストリー上で定義される遺伝子発現量などのあらゆる表現型統計量の適応度や選択強度を定量的に評価できることを示す[3]。最後に、抗生物質投与下に置かれた大腸菌の1細胞レベルの動態に関する実験結果を示し[4]、ストレスに対して順応する細胞ヒストリーの特徴について紹介したい。発表では、タイムラプス計測により得られた、大腸菌の増殖やストレス下で起こる1細胞レベルでの生々しい生死応答の様子も動画で紹介する。
[1] Wakamoto Y, Grosberg AY, Kussell E. Optimal lineage principle for age-structured populations. Evolution 66:115–34 (2011).
[2] Hashimoto M, et al. Noise-driven growth rate gain in clonal cellular populations. Proc Natl Acad Sci 113:3251–3256 (2016).
[3] Nozoe T, Kussell E, Wakamoto Y. Inferring fitness landscapes and selection on phenotypic states from single-cell genealogical data, submitted.
[4] Wakamoto Y, et al. Dynamic persistence of antibiotic-stressed mycobacteria. Science 339:91–5 (2013).
宣伝用ビラ
KMB20160707.pdf(193)
物性セミナーのページ
http://huku.c.u-tokyo.ac.jp/cgi-bin/FSwiki/wiki.cgi/BusseiSeminar
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最終更新時間:2016年06月27日 16時21分23秒