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物性セミナー/2016-5-26

2016年 夏学期 第1回 物性セミナー

 講師 山地洋平氏 ( 東京大学大学院工学系研究科附属量子相エレクトロニクス研究センター)

 題目 イリジウム酸化物とスピン液体

 日時 2016年 5月 26日(木) 午後4時50分

 場所 16号館 827

アブストラクト

結晶中の電子が示す性質を予言し、望む性質を持つ物質を設計することは、理論物性研究の目標の一つです。とくに、化学組成と結晶構造から物性を定量的に予測しようとする第一原理電子状態計算と量子多体問題の高精度数値解法を組み合わせて、高温超伝導やスピン液体と呼ばれる興味深い量子相を示す強相関物質の性質を解明するための研究が、国内外で行われています。しかし、銅酸化物や分子性導体、重い電子系を始めとする強相関電子系の性質を定量的に予測することは未だ難しく、今まさに発展し続けている研究分野です。

簡単に解けない問題に挑む際、性質が良く分かっている、あるいは厳密解が存在する極限から実際の問題に摂動的に接近するのは常套手段です。自由電子系から出発してクーロン相互作用を取り込む通常の摂動論では定量的な扱いができない強相関電子系では、非自明かつ制御された極限からのアプローチは、なおさら有効です。しかし、現実の固体で実現する 2 次元量子系や 3 次元量子系に近い有効な極限は希少です。

2000 年代半ばに一つの転機が訪れました。キタエフ模型と呼ばれる、強く相互作用する 2 次元量子系でありながら可解な模型が発見されたのです [1]( その後 3 次元でも可解模型が構成できることが明らかとなっています ) 。このキタエフ模型のスピン液体と呼ばれる基底状態では、電子が分数化することで、粒子が同時に反粒子でもあるマヨラナ粒子が創発的に現れることを、提唱者であるキタエフが証明しています。さらに驚くべきことに、キタエフ模型が擬 2 次元の強相関絶縁体 A2IrO3 (A=Li,Na) で実現される可能性が、その後理論的に指摘されたのです [2] 。

非自明な可解極限であるキタエフ模型に“ 近い ”と予想された A2IrO3 は、第一原理的かつ定量的な強相関物性予測を目指す理論研究の、格好の試金石となりました。残念ながら、 Na2IrO3 と Li2IrO3 の基底状態がスピン液体ではないことは実験で明らかになっていますが、これらの物質が本当にキタエフ模型に近いのか、さらには、これらの物質から出発してキタエフのスピン液体を実現するにはどうすればよいのか、興味は尽きません。

私たちは第一原理的手法による解析を実行し、 Na2IrO3 が実際にキタエフ模型に“ 近い ”ことを示しました[3] 。第一原理的に導いたハミルトニアンがキタエフ模型に近いことに加え、キタエフ模型が示す特徴的な比熱の温度依存性が Na2IrO3 においても観測されることを予測し、比熱の温度依存性からキタエフ模型への“ 距離 ”を測る方法を提案しています [4] 。

本セミナーで議論させていただく研究結果は、量子統計力学 [5] と計算機の発展の恩恵によるものです。現在、理論的に数値対角化法 [6] に基づいて計算した比熱や帯磁率の温度依存性やスピン構造因子が、実験データと直接比較できる状況になりつつありますので、数値計算手法についても紹介させていただきます。

[1] A. Kitaev, Annals Phys. 321, 2 (2006).

[2] G. Jackeli and G. Khaliullin, Phys. Rev. Lett. 102, 017205 (2009); J. Chaloupka, G. Jackeli, and G.Khaliullin, Phys. Rev. Lett. 105, 027204 (2010).

[3] Y. Yamaji, Y. Nomura, M. Kurita, R. Arita, and M. Imada, Phys. Rev. Lett. 113, 107201 (2014).

[4] Y. Yamaji, T. Suzuki, T. Yamada, S. Suga, N. Kawashima, and M. Imada, arXiv:1601.05512, to bepublished in Phys. Rev. B.

[5] S. Sugiura and A. Shimizu, Phys. Rev. Lett. 108, 240401 (2012); S. Sugiura and A. Shimizu, Phys. Rev.Lett. 111, 010401 (2013).

[6] http://ma.cms-initiative.jp/ja/index/ja/listapps/hphi

宣伝用ビラ

KMB20160526.pdf(118)

物性セミナーのページ

http://huku.c.u-tokyo.ac.jp/cgi-bin/FSwiki/wiki.cgi/BusseiSeminar

駒場セミナーカレンダー(駒場内のみアクセス可)

http://huku.c.u-tokyo.ac.jp/cgi-bin/webcal/webcal.cgi

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最終更新時間:2016年05月23日 14時35分07秒