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物性セミナー/2014-5-14

2014年 夏学期 第2回 物性セミナー

 講師 宗行 英朗 氏(中央大学理工学部 物理学科)

 題目 回転分子モーターF1-ATPaseによる化学力学エネルギー変換について

 日時 2013年 5月 14日(水) 午後4時30分 いつもと曜日が異なります

 場所 16号館 827

アブストラクト

ATP合成酵素(FoF1-ATP synthase の一部であるF1部分(F1モーター)は,ATPをADPとPiに加水分解することによって,α3β3の6つのサブユニットからなる円筒形の複合体の中で中心軸となるgサブユニットに120゜のステップ回転を起こす.この回転運動は力学的仕事をすることが出来るので,F1-ATPaseは化学反応による自由エネルギー変化を力学的なエネルギーに変換するエンジンとして働くことが出来る.このステップ回転はα3β3の部分をスライドガラスの上に固定して,gサブユニットに大きな目印を付けることで,顕微鏡により一分子観察することができる.我々は,このステップ回転の挙動やエネルギー変換の効率が,回転を駆動するATP加水分解の自由エネルギー差や,外部トルクによりどのような影響を受けるかに疑問をもって一連の研究を行ってきた.まず外部トルクがない条件では,このステップ回転をする時の角速度がATP加水分解の自由エネルギーにほとんど依存しないことを見出した(1).このことは一見して,出力の大きさが入力に依存しないように見える結果であった.次に外部トルクを回転電場法によって印可してF1モーターの回転が平均して止まっている状態(ストール状態)をつくった.  ストール状態でもF1は前向きのステップを示し,その頻度が後ろ向きのステップの頻度と釣り合うことで平均して停止した状態となっていることがわかった.ストールトルクから最大仕事を算出すると,それはATP加水分解の自由エネルギーによく一致して,広い範囲で自由エネルギーの変換効率はほぼ100%となった(2).これはF1モーターにおいて,ATPの加水分解とステップ回転がほぼタイトにカップルしていることを意味する.外部トルクがストールトルクより小さい非平衡状態では,ATP加水分解の自由エネルギーは散逸する.その散逸はHarada-Sasa等式を用いることによって,実験で調べた範囲で回転自由度での非平衡揺らぎと平均速度で回転するときの摩擦熱の和にほぼ一致していた(3).このような性質は回転のトラジェクトリから推定したポテンシャルとその切り替わりの性質(4)と符合するもので,川口らにより理論的な説明がされている(5).最後に非平衡揺らぎを相関させることでふたつのラチェット系が共役する分子機械のモデル(6)などについても触れてみたい.

References

(1) Single Molecule Energetics of F1-ATPase Motor. Muneyuki, E., Watanabe-Nakayama, T., Suzuki, T., Yoshida, M., Nishizaka, T., Noji, H. Biophys. J., 92(5), 1806-1812, (2007)

(2)   Thermodynamic efficiency and mechanochemical coupling of F1-ATPase. Toyabe, S., Watanabe-Nakayama, T., Okamoto, T., Kudo S., and Muneyuki, E. PNAS 108(44), 17951- 17956 (2011)

(3)    Nonequilibrium Energetics of a Single F1-ATPase Molecule. Toyabe, S., Okamoto, T., Watanabe-Nakayama, T., Taketani, H., Kudo, S., and Muneyuki, E. Phys. Rev. Lett. 104, 198103 (2010)

(4)   Recovery of state-specific potential of molecular motor from single-molecule trajectory. Toyabe, S., Ueno, H., Muneyuki, E. EPL 97, 40004 (2012)

(5)   Nonequilibrium dissipation-free transport in F1-ATPase and the thermodynamic role of asymmetric allosterism. Kawaguchi, K., Sasa, S., Sagawa, T.  arXiv:1307.39

(6)    Allosteric model of an ion pump. Muneyuki E, Sekimoto K. Phys. Rev. E 81, 011137 (2010)

宣伝用ビラ

KMB20140514.pdf(508)

物性セミナーのページ

http://huku.c.u-tokyo.ac.jp/cgi-bin/FSwiki/wiki.cgi/BusseiSeminar

駒場セミナーカレンダー(駒場内のみアクセス可)

http://huku.c.u-tokyo.ac.jp/cgi-bin/webcal/webcal.cgi

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最終更新時間:2014年05月08日 20時53分40秒