2010年 冬学期 第2回 物性セミナー
講師 宇田川 将文 氏(東京大学・大学院工学系研究科)
題目 アイスルール伝導系の量子臨界現象と分数電荷
日時 2010年 11月 19日(金) 午後4時30分
場所 16号館 827
アブストラクト
「氷」の示す際立った性質の一つとして、絶対零度近傍においても有限のエントロピーを持つ事が知られている。この残留エントロピーの値は氷結晶中の水素原子がアイスルールと呼ばれる単純な規則に従うことから説明される。アイスルールを満たす配置にはマクロな個数の縮退があり、その縮退数の対数が残留エントロピーと一致するというわけである。興味深いことに、このアイスルールは一般のイジング的な自由度に拡張可能な普遍的な概念であり、電荷やスピンの言葉に翻訳されて、固体物理全般にわたる様々な系で広く重要な役割を果たしている。その中で、近年にわかに注目を集めているのがアイスルールに従う局在自由度(アイスルール系)と伝導電子が結合した系である。アイスルール系はマクロな縮退を反映して無秩序な状態をとるが、完全には無相関ではなく、隠れたゲージ構造を反映したベキ的な準長距離相関を示す事が知られている。このような特殊な空間構造との結合により、どのような電子状態や伝導特性が発現するかは自明ではない。実験的にも最近になって、IrやMoを含むパイロクロア酸化物系において、このようなアイスルール系と伝導電子の結合に起因すると思われる興味深い現象が見出されており、理論的な取り組みが急務とされている。我々は、こうしたアイスルール系と伝導電子の結合を記述するミニマルなモデルとして拡張Falicov-Kimball模型を考え、現実のパイロクロア格子の特徴を残した伏見カクタス格子という単純化されたネットワーク上において、その厳密解を得る事に成功した。これに基づいて得られた基底状態相図は、二種類の性質の異なる絶縁相と金属相を含み、これらの相は量子臨界点によって隔てられている。量子臨界点直上では電子の自己エネルギーが異常なベキを示し、``非フェルミ液体的な"挙動が現れる。また、強結合側に広がる電荷アイス相においては分数励起の存在が示唆されるなど、豊富な物理の存在を見出している。本セミナーでは、数値的なアプローチによって得られた伝導特性に関する結果もふまえ、アイスルール系と伝導電子の結合系の織りなす物理について紹介したい。本研究は石塚 大晃氏、求 幸年氏との共同研究である。
参考文献:M. Udagawa, H. Ishizuka, and Y. Motome, Phys. Rev. Lett. 104, 226405 (2010)"Quantum Melting of Charge Ice and Non-Fermi-Liquid Behavior: An ExactSolution for the Extended Falicov-Kimball Model in the Ice-Rule Limit"
宣伝用ビラ
KMB2010-1119.pdf(491)
物性セミナーのページ
http://huku.c.u-tokyo.ac.jp/cgi-bin/FSwiki/wiki.cgi/BusseiSeminar
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最終更新時間:2010年11月13日 17時41分29秒