研究内容

細胞内のオルガネラネットワークの解明:

細胞内では様々な生化学反応が協調的に起こる。これにより、それぞれの細胞は自律的に維持され、特異な機能を発揮している。この細胞内生化学反応の多くは細胞内のどこでも起こるわけではなく、ミトコンドリア、小胞体、リソソームといった、細胞内の小器官(オルガネラ)において起こっている。従って、これらの生化学反応が協調するには、オルガネラ間での物質の輸送やシグナル伝達などが非常に重要である。
オルガネラが発見されてから長い間、オルガネラは細胞内でそれぞれ独立に存在しているように考えられてきた。しかし、近年の研究から、実はオルガネラ同士は物理的に接触し、物質やシグナルをやりとりしていることが明らかになってきた。
我々はこのやっとわかり始めたオルガネラ間コミュニケーション、特に小胞体―ミトコンドリア間の接触について、その分子機構や、その細胞機能の発揮における役割を明らかにすることを目的として研究している。

脳の神経細胞が働くメカニズムの解明:

脳の機能は神経細胞がネットワークを形成し、神経伝達物質を介した信号を送ることで発揮されている。それぞれの神経細胞の中では、他の神経細胞から受けた信号の「処理」が行われ、神経回路形成素子としての役割を果たしている。しかしながら、どの様にして複雑な信号処理が行われているかは未だ多くが明らかではない。
我々は、この信号処理においてオルガネラが果たす役割について研究している。電子顕微鏡を使って観察すると、それぞれの神経細胞においてオルガネラは特異な形態や配置をしているし、一つの神経細胞の中でも部位によってオルガネラ構造は大きく異なる。この意味を明らかにすることで、我々の脳がどのようにしてこの様な高度な機能を持つのか明らかにしたい。

脳の神経回路形成、維持機構の解明:

哺乳類の脳の神経細胞は、細胞体のサイズは数十マイクロメートル(髪の毛の太さほど)にも関わらず、非常に細い突起を時には数センチメートル先の神経細胞にまで伸ばすことで回路形成を行っている。この様な構造の形成、そして維持は非常に精巧なメカニズムが存在すると考えられているが、未だ多くが不明なままである。我々は、神経回路形成、維持メカニズムにおけるオルガネラの役割について研究している。

電子顕微鏡によるニューロンのナノ構造の解明:

細胞のナノスケールレベルでの理解は未だ不十分である。この原因の一端はナノメートルレベルでの細胞内の構造観察が容易でないことにある。当研究室では、独自に開発した電子顕微鏡観察技術と深層学習による解析によりニューロンを始めとした細胞内の微細構造をより詳細にかつ3次元的に明らかにする。

成体におけるニューロン新生:

成体において作られるニューロンは記憶の形成などに重要な役割を果たしている。しかし、どのタイミングでニューロンがどの程度作られるのかなど未だ分からないことが多くある。当研究室では神経幹細胞からニューロンへの分化の過程がどのように制御されているのかを明らかにすることを目指す。