Spin nematics
[Yokoyama-Hotta, PRB97180404R (2018),
Tanaka-Yokoyama-Hotta, JPSJ87023702 (2018)]
物質中の電子はS=1/2の大きさのスピンをもっています. この電子が強い相互作用で動けなくなると
Mott絶縁体のような強相関絶縁体になります. そしてスピンのみがactiveな低エネルギー自由度として働く
量子スピン系を形成します.
このような系でS=1/2のペアが量子的に強くentangleしてつくられるのが spin singlet であり
実効的に S=0の「スピンがみえない」状態です.
一方でS=1/2がそろうと ferromagnetやantiferromagnetになります (spin dipole).
S=1/2のスピンがさらにHund相互作用などのS=1を形成することがあります.
磁場中の素励起も Sz=-1/2を+1/2にひっくり返して得られる Sz=1 というマグノン(磁気的な仮想粒子)です.
こうしたS=1が今度は隣同士でentangleしてつくられるのが spin nematicsです
[初期の提案 Andreev, Grishchuk など].
"nematics"は液晶などで知られる directorという 方向をもつが上下の向きをもたない状態をいいます.
spin nematicsは実際 有限のSをもちながらも, その向きはもたない二階のテンソルであらわされる
quadrupole(四重極)です.
もともとS=1がつよくbindして作られる状態であるため, 通常の物質でspin nematicsを得るためには,
(1)S=1を用意する, (2) 隣同士のS=1がentangled pairを組むようなメカニズムを系が持っている,
という二つの条件が必要です.
以前からtoy model上では biquadratic相互作用という相互作用を用意してやると その相互作用の形がちょうど
nematic相関と同じ形をもつためnematic相が生じるということがわかっていました.
またcold atomなどの人工的にHamiltonianが設計できるような系では, bosonic hubbard modelなどで
nematic相の存在が理論的に指摘されてきました.
しかし物質中で自然に生じるnematicsをみつけるのはなかなか困難で スピン液体と同程度に実現が困難な量子相の一つに挙げられていました.
よく知られていたmechanismとしては
(1)を高磁場中の素励起として生じる Sz=-1のマグノン, 強磁性状態のそばで生じるS=1 をつかうこと,  
(2) フラストレーションなどの効果でbindしてマグノンバンドを平坦にして(マグノンを単独では動けなくさせて)
マグノンペアとして系の中を動き回らせる, というものです
[Momoi, Shannon, Tsunetsugu, Penc, Lauhili など2005ごろ].
我々は nematicsとは最も遠い関係にある spin singletというspinが死んだ状態から
ring exchange(リング交換)相互作用など高次の交換相互作用を導入することにより,
2次元のdumbell dimer系で spin nematics および SU(3)triplet BEC (Bose Einstein 凝縮) という
ふたつの新しい量子相が実現することを明らかにしました.