麹菌の細胞融合と不和合性の解析と有性生殖能の開発

麹菌では有性世代が見つかっておらず、以前は不完全菌として分類されてきました。様々な株の優良な形質を併せもつ株を育種するための交配が適用できないのが長年の課題となっています。
私たちはこれまでに、様々な用途の麹菌株を調べて2つの接合型(MAT1-1型, MAT1-2型)が存在することを明らかにしました(図1)。このことにより、麹菌がヘテロタリックな有性生殖を行う能力をもつ可能性が考えられました。現在は、有性生殖に関連する遺伝子を操作することにより、麹菌において有性生殖を誘導することを試みています(図2)。

図1 図2

 

有性生殖の過程では、異なる接合型をもつ株どうしが細胞融合を行う必要があります。麹菌の細胞融合に関する研究は、1950年代に坂口謹一郎東京大学名誉教授らの報告がありましたが、以降は途絶えていました。私たちは、約60年ぶりに麹菌が細胞融合能をもつことを再発見しました(図3)。さらに、細胞融合に関与する新規因子を見いだすことで、麹菌の細胞融合能を向上させることを目指しています。

図3

 

麹菌には日本酒・醤油・味噌など用途によって多種多様な株がありますが、私たちは最近、株の組み合わせによっては細胞融合体が存在できない「不和合性」という現象を発見しました。すなわち、同じ麹菌でありながらも、株間で自己・非自己を見分ける仕組みが存在することを明らかにしました。現在は、麹菌の不和合性の解消や有性生殖能力を高めるための研究を行っています。

図4